親族が亡くなった場合でも,その方に配偶者やお子さんがいらっしゃるなら,相続放棄等が行われない限り,兄弟姉妹が法定相続人になることはなく,複雑化は回避できます。
しかしながら,配偶者や子なくして亡くなってしまう方は,少なからずいらっしゃいます。このような場合,兄弟姉妹が法定相続人になりますし,兄弟姉妹がすでに死亡していたなら,その方のお子さんらが代襲して法定相続人になります。
こうなると,法定相続人が多数となり意思統一が難しくなります(遺産分割協議は,全員一致でなければ成立しません。)。
さらには,そもそも連絡がとれない法定相続人も出てきます。親族関係が希薄になっている現代社会ならなおさらです。
遠方に居住しているなら面会も容易でありませんし,高齢で認知症になっていた場合には,後見人等の選任が必要になるといった事態すらありえます。
果たして,時間や労力,費用も掛けてまで,困難な遺産分割調停を申し立てるべきか,,,,,難しい問題です。
ところで,遺産のなかの預貯金ですが,以前は,法定相続人が自らの相続分について単独で払い戻すことも不可能ではありませんでした。
しかしながら,平成28年12月19日,最高裁判所は,それを否定したのです。
そうすると,遺産分割協議が成立しない限り預貯金の払戻しができなくなり,種々の不都合が出てくるデメリットがありました。
その後,相続法は大幅に改正され,順次,施行されています。
今年7月1日に施行されたのが民法第909条の2です。これにより,一定程度(相続開始時の残高の3分の1に自らの法定相続分を乗じた金額),法定相続人が単独で預貯金の払戻しを行えることになりました。
最初に述べたとおり,親族間での人間関係が希薄となった現代社会では,遺産分割協議を成立させることが絶望的と言えることもままあります。このような場合には,民法第909条の2に基づき,一部分でも相続の恩恵を享受しておくという選択肢もあるのです。